バス通り裏のはなし②
バス通り裏が店を開けるのはだいたい10時半ごろで、45分から11時の間にスタッフは出勤する。
開店準備や買い物を終えると、マスターと一緒に朝ごはんを食べる。
いつも食パンを一枚、オーブンで焼いて半分こにしたものを二人で食べた。ジャムを塗るのはスタッフで、このジャムは上等だから美味しいとか、マーマレードが一番好きとか後ろから言ってくるのがマスター。さらっとコーヒーを淹れてくれてたりする。最高の朝ごはん。
昼をすぎてから少しずつ、お稽古帰りの常連さんたちが見えてくる。お稽古がない日は比較的静かで、3時ごろになるとウトウトしだしたマスターが、今日のおやつは?とおつかいを促す。
近くの饅頭屋さんやスーパーで手頃なものをやや予算オーバー気味で買って、戻ると「ちょっと多くない?」とつっこまれる。
それも見越した確信犯だ。マスターもなんだかんだで美味しそうに食べるので確信犯はついでに焼き鳥なども買ってきたりする。
案の定体重は増える一方であった。
昼ごはんはだいたい2時ごろ。店にあるもので適当に食べる。サンドイッチにしたり、ホットサンドにしたり、買ってきたり。
景気がいいとマスターが市場から寿司を買ってきたりする。なんだか後半はほぼ毎日寿司だった気がする。あんなに寿司を食べることはもうないな…。
市場の人たちとの交流も、ここで働くことと切っても切れなかった。ホットサンドに使うキンピラやハンバーグは市場の惣菜屋さんで買っていたし、買い付けていた肉屋さんにはよく両替をしてもらった。果物屋さんで旬のフルーツを買って食べたり、お店の人と話をしたりするのも市場ならでは。それまで地域との交流が少なかったわたしにとって貴重な体験になったなぁ。
夕方、5時をすぎるとそろそろ閉店の準備。
気がはやいマスターはその日の売り上げが良くないとふてくされて、いつもより早めに閉めたりする。
開店から閉店までゆったりな日もあれば、ちょっと忙しくてバタバタしたりする日もあって、疲れたり楽しかったりの繰り返し。日々いろんな光景をお店の中から見てきて、こんな仕事ができるなんてと心の底から嬉しかった。
閉店した後はマスターと夜ご飯を買いに行ったり、そのままうどん屋さんでご飯を食べたりした。本当にマスターはスタッフたちの面倒をよく見てくれて、こっちが心配になるくらいだった(それでも甘えるのだけれど)。
わたしがバス通り裏で働きだしたくらいの頃、テレビの取材が入った。
まだ慣れてない仕事に慣れてないテレビでど緊張だったわたしに、ホットサンドを美味しそうに食べたアナウンサーの人が最後にこんなことを聞いた。
「羊さんにとってマスターはどんな人ですか?」
きっとお父さんとか言ってほしいのかな、と思ってはいたが、お父さんではないし、おじいちゃんでもなくて
「わたしにとってマスターは、マスターです」
というだいぶトンチンカンな返答をしてしまった。
でも今になってもわたしの中でのマスターはバス通り裏の「マスター」であって、揺るがない固有名詞として今後の人生に残り続けると思う。
マスターがマスターたる所以は前回も書いたことにとどまらず、たくさん伝説(?武勇伝?笑)があるのだけれども、長くなったので今日はここまで。
更新が滞りがちなのはご容赦ください。
つづく。
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