実家と墓
なるべく週に一回は実家に顔を出すようにしているが、今週は父からLINEで、3日塩で熟成した豚バラをさらに特製味噌ダレで熟成させたものが今週末には最高級品に仕上がるだろう、とやんわり帰ってこいメッセージがきたので行ってきた。
特製豚をもしゃもしゃ食べて一息ついついた頃、ひょんなことからお墓の話になった。
父の実家の墓には同じ敷地内に江戸時代のお相撲さんの墓があって、どんな由縁かは知らないが、かつて新聞記事にも取り上げられたんだとか。
父が若い頃、その墓を綺麗にするため掘り起こす場面に立ち会ったそうだが、お相撲さんの大腿骨が出てきて、それがあまりにも大きくて驚いたらしい。
またこんな話も聞いた。
父の祖父は土葬だったそうだが、骨を燃やすため掘り起こしたところ、形見として入れた財布を祖父の頭蓋はしっかり噛みしめていたらしい。商人で金にがめつかったのだ、という話だが土葬の文化を知らないわたしとって非常に興味深かった。
そんな話を聞いてしみじみ思うのだが、死に初めて直面したときの印象はかなり強く残るということだ。
その時わたしの中の遠い記憶が呼び起こされた。まだ小学校低学年か、親に手を引かれるほど小さい時だった。人生で初めて人の死に顔を見たのだ。
おばあちゃんの親戚の方がなくなったと、斎場に駆けつけ、線香をあげたのだが、今でもハッキリと棺桶の中の顔を覚えている。直接知っている訳ではなかったので感情は全く湧かなかったのだが、鼻に綿が詰められている、人形のような顔が強烈にイメージとして残った。
後日談。なんとその人は全く親戚ではなかった。斎場を間違えてたどり着いたものの、母も祖母もその人の顔をハッキリ覚えていなかったため気付かなかったらしい。結局その場にいた人と話が噛み合わず、確認すると間違えていた、というとんでもなくおっちょこちょいなエピソードである。その後本当の親戚の葬式には出向いたのだが、そこで見たはずの顔は全く覚えていない。
身近な死に直面したのは、高校1年生の時だった。受験でなかなか会えないまま、志望校合格を報告したのが最期になった。祖父は初孫のわたしを最期まで優しく見守ってくれた。
ひたすら悲しくて、孝行できなかったのが無念でならなかった。初めての通夜、葬式。火葬場。あまりにも淡々と進むので、その作業感が余計残酷だった。もっと丁寧に弔ってもよかったのでは、と今となって思う。まるでオーブンで焼いたケーキができあがるのを待つかのような、そんなワクワクするものではないけど、人の最期の姿にしてはあまりにも呆気ないものが、随分と待たされた後に出てきて、呆然とした。
母もその時が初めての近親者の死であったという。ただその時の火葬場はあまりにも嫌だった、と話す。その後福岡へ親戚の葬式へ行ったそうだが、その火葬場はメモリアルホールのように綺麗で、家族だけの個室で、火葬後、ゆっくり丁寧に、遺族の心に残るような説明をされたらしい。目の前にある骨はただの骨ではなく、確かにあの人であったと、心を込めて拾えたと、母は話す。
長崎の火葬場はあまりにも雑然としていて、ここでは絶対焼かれたくないと思ったらしい。
そうか、自分はこれまでどのように死ぬべきか(人生を終えるべきか)ということを考えていたが、死んでしまった後のことも割と重要で、残された遺族が快く見送れるような、そんな葬られ方も考えねばならんと思った。
というより、母の話を聞いて思ったのは福岡の火葬場のように、人の最期の瞬間を手厚くフォローしてくれるサービス(字面が軽くなってしまうが…)があることに純粋に感動した。
○○葬のように、墓に入るだけではない多様な葬られ方がある時代だし、その時々で移り変わってゆくものだから自分が死ぬ時なんて死への捉え方や埋葬の仕方ももっと変わっているんだろう。
ただ、今がまだ死というものに多く接する年齢ではないから見ぬフリをしているだけで、死というものはずっとつきまとうものだということを改めて感じた。
思考の深淵に至る。(これ以上考えるのは無理…)
要約するとメメント・モリである。
8月はなにかと死をおもう季節だ。
原爆の日、そしてお盆。
死を見つめることは、生を見つめることだ。別れは悲しいが、その後の自分が歩む一歩一歩は力強くなっていく。
長くなりすぎて脱線した感があるが…締めくくり。今日ひとつ、長らく付き添ったものとの別れがあった。
実家の車である。これは亡くなった祖父が乗っていたものを引き継いでいたのだが、いよいよ寿命が来たらしい。所詮無機物といえど、なぜか愛着というのはわくもので、車の前で一言感謝の気持ちを述べた。ホロリ、じいちゃんの運転する車で公園に連れて行ってもらったことや家族と出かけたことなどを思い出してしまった。
思い出は胸にしまって、新たな出会いに期待を膨らまそうぞ。
特に最近人が亡くなったというわけではないが、長々と書いてしまった。今日はこの辺で。
つづく。
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